アリババのTongyi Visionで責任者を務めていた薄列峰(Bo Liefeng)が、テンセントの大規模言語モデルHunyuanチームに加わった。報道によれば、薄は副総裁の蒋杰(Jiang Jie)直属の下で、多モーダル技術の開発を主導するという。
薄列峰はマルチモーダルAI分野の第一人者であり、深層学習ブーム以前からの研究実績を持つ。Amazon Goプロジェクトでは第2世代アルゴリズムの中核を担い、JD Digits(京東数科)を経て2022年にアリババへ。XRラボを統括後、Tongyi Visionの立ち上げとともに画像・映像生成技術の実用化を進めた。
同氏が主導した「Animate Anyone(人物動作生成)」「Outfit Anyone(一括衣装変更)」「EMO(音声駆動の肖像動画生成)」などのフレームワークは、2024年の中国生成AI大会でも紹介され、Sora対抗技術の柱と目された。これらはすでにQwenアプリに実装され、SNS上で広く拡散された。
Tongyi Visionでは他の幹部人材の流出も続いている。音声責任者の鄢志杰(Yan Zhijie)は別企業へ移籍後、わずか3カ月で退職。アリババクラウド元副総裁の葉杰平(Ye Jieping)も浙江省の研究機関で再登場するなど、人事再編が続いている。
一方、バイトダンスはすでにTongyi Labの大規模言語モデル技術責任者・周暢(Zhou Chang)を中心としたチームを引き抜いており、アリババ側は競業禁止違反で訴訟を起こしている。今回の薄列峰も同様のリスクを抱えるとみられる。
アリババが推進する大規模言語モデル戦略は、近年の再編で技術資源の集中化が進んだ一方、組織変動によってキーパーソンの流出が続いている。AI人材の争奪戦が激しさを増すなか、バイトダンスはビジネスSNS「Maimai(脈脈)」のデータにおいて4年連続でAI関連採用数トップを維持し、平均給与も月5万元(約110万円)を超えるという。テンセントへの薄の合流は、中国におけるAI人材競争に新たな火種を加えた格好だ。